2025年11月18日
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落雷・雷害から守る!避雷設備と電気工事の基本知識──建物と機器を守るために知っておきたいポイント
日本では毎年、夏から秋にかけて落雷が多く発生します。
近年は局地的な豪雨や雷を伴う気象が増加傾向にあると言われており、また注目されるようになっており、建物や設備の雷被害は決して他人事ではありません。雷が建物に落ちると、外壁の損傷や火災につながるだけでなく、屋内の電気機器にも大きな影響を与えます。
パソコンやサーバーの故障、データ消失、通信障害、停電などの二次被害が発生すれば、家庭やオフィスだけでなく、企業の事業継続にも深刻なダメージを与える可能性があります。
こうしたリスクを最小限に抑えるために不可欠なのが「避雷設備」と「雷サージ対策」です。本記事では、雷害の基礎知識から、避雷設備の仕組み、必要な電気工事のポイント、メンテナンスまで、落雷対策に必要な情報をわかりやすく解説します。
1. 落雷・雷害とは?──基本のメカニズムを知る
落雷とは、大気中で発生する巨大な放電現象です。雷雲(積乱雲)の内部ではプラスとマイナスの電荷が分離し、地上との間に数千万ボルトに及ぶ電位差が生まれます。この電位差が限界を超えると、一気に放電が起こり、それが私たちが目にする「雷」となります。
雷被害には大きく3つの種類があります。
①直撃雷:建物や電柱などに直接雷が落ちる現象。非常に大きな電流が流れ、構造体や設備に重大な損傷を与えます。
②誘導雷:雷の電磁誘導により、離れた場所であっても金属配線や通信線に過電圧が発生する現象。直接落雷でなくても機器故障が起こることがあります。
③侵入雷:電力線や通信線を通じて雷電流が建物内部に侵入する現象。分電盤や部屋のコンセントを介して屋内の電子機器を破損させる原因になります。
これらの雷害を防ぐには、建物の外側と内側、それぞれに適した「電気的な防護対策」が求められます。
2. 避雷設備の基本構成──3つの要素で建物を防護
避雷設備は、建物に落雷しても安全に電流を地中へ逃がすための仕組みです。主に以下の3つで構成されます。
1. 受雷部(避雷針・避雷塔)
建物の最も高い場所に設置され、落雷を意図的に誘導して受け止める役割を持ちます。
避雷針があることで、雷が周囲の不意な場所に落ちるリスクを低減できます。
2. 引下線
受雷部で受けた雷電流を、建物内部に流れ込ませずに地面へ導くための導線です。
太い銅線もしくは鋼線が外壁に沿って設置され、安全に電流を流すための重要な経路となります。
3. 接地極(アース)
雷電流を大地へ逃がすための設備で、接地抵抗値が低いほど安全性が高まります。
避雷針と引下線が正常に機能しても、接地が不十分だと電流が建物内部に流れ込む危険があります。
これら3つの設備が正しく接続されてはじめて「落雷時に建物を守る」効果が発揮されます。
どれか一つでも不備があると、雷電流が別ルートに流れてしまい、建物や機器に損傷を与える原因となります。
3. 雷サージ対策と電気設備保護
避雷設備が建物の外側を守る役割を果たす一方で、屋内の機器を守るには「雷サージ対策」が欠かせません。
特に現在ではパソコンや通信機器が増えており、少しの過電圧でも重大故障が発生するケースが増えています。
最も一般的な対策が SPD(サージ防護デバイス) の設置です。
SPDは雷による瞬間的な過電圧(サージ)を安全に逃がし、分電盤やネットワーク機器が破損するのを防ぎます。
特に次のような機器で効果を発揮します。
●サーバー・NASなどのストレージ系機器
●ビジネスフォンや電話回線
●LAN配線やネットワークハブ
●複合機や監視カメラ
家庭向けであれば、雷ガード付きタップや、避雷機能のあるコンセントを利用することで簡易対策が可能です。建物全体で雷対策を行う場合は、電源系・通信系それぞれの入り口にSPDを配置すると効果が高まります。
4. 避雷設備工事の流れと設置基準
避雷設備の工事は、次のような流れで行われます。
1. 現地調査・設計:建物の高さ、構造、利用状況を調査し、避雷針の位置や引下線のルート、接地極の仕様を設計します。
2. 部材選定:JIS規格に準拠した材料を選び、必要な長さや耐久性を計算します。
3. 施工:高所作業が多いため、電気工事士や専門業者が安全対策を行いながら施工します。
4. 測定・検査:接地抵抗値が基準値以下か、引下線や接続部の導通に問題がないかを確認します。
避雷設備の設計基準は、**JIS A 4201やJIS Z 9290シリーズ(建築物の雷保護)** に基づき定められています。
接地抵抗値は一般的に 10Ω以下 が望ましいとされ、これを超える場合は接地極の追加や土壌改良などが必要になります。
5. メンテナンス・点検の重要性
避雷設備は設置しただけでは十分ではありません。
雷の衝撃や経年劣化により、部材の腐食や接続の緩みが発生する可能性があります。
性能が低下した状態で落雷を受けると、建物を十分に保護できない場合があります。
点検は 年1回以上 が推奨され、特に梅雨や台風シーズンを前に実施すると安心です。
主な点検項目は以下の通りです。
●接地抵抗値の測定
●引下線・受雷部の損傷確認
●接続部の導通状態の確認
●さび・腐食の有無
定期的なメンテナンスにより、避雷設備が常に設計通りの性能を発揮できるようにしておくことが重要です。
6. 避雷設備と建物の電気設計──BCPの観点から
落雷による設備故障や停電は、企業の事業継続に大きな影響を与えます。
特にサーバー室、医療機関、工場設備など、停止が許されない環境では、避雷設備と併せて 非常用発電機やUPS(無停電電源装置) を組み合わせた対策が求められます。
また近年は、サーバーやネットワーク機器が企業活動の中枢を担っているため、雷による瞬間的な電圧変動や通信障害が業務停止に直結するリスクも高まっています。そのため、落雷対策は単なる設備保護にとどまらず、企業のBCP(事業継続計画)の一環として位置づけられるケースが増えています。
BCPの観点から見る雷対策には次のようなポイントがあります。
●避雷設備(建物外側の防護):直撃雷への備え
●SPD設置(建物内側の防護):侵入雷・誘導雷による設備故障を防止
●非常用電源(UPS・発電機):停電発生時でも重要システムを稼働継続
●通信設備の冗長化:雷災害時の通信断絶を回避
特にUPSは、瞬時電圧低下(瞬低)が発生した場合でもサーバーやネットワーク機器の稼働を維持できるため、医療機関やコールセンター、データセンターなどでは必須です。避雷設備とサージ対策を組み合わせることで、雷害による事業停止リスクを大幅に軽減できます。
7. まとめ:雷対策は“コスト”ではなく“保険”
落雷は自然現象であり、発生時間や規模を正確に予測することはできません。
しかし、適切な避雷設備と電気的な防護対策を施しておけば、建物の損傷や機器故障、データ消失といった大きなリスクを事前に回避できます。
避雷設備は一見するとコストが高く感じられるかもしれませんが、被害が発生した場合の復旧費用や業務停止による損失を考えると、十分に価値のある投資です。
また、定期的な点検を行うことで、設備を長く安全に運用でき、もしもの際も安心できる環境を維持できます。
雷対策は「落雷しないこと」に期待するのではなく、「落雷しても大丈夫な状態をつくること」が本質です。
建物の用途や設備構成に合わせて、最適な避雷設備・サージ対策を備え、安全な環境づくりに役立ててください。
